障害者総合支援法施行3年後の見直しについて ~社会保障審議会 障害者部会 報告書~ 平成27年12月14日 1 目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 基本的な考え方 Ⅲ 各論点について 1.常時介護を要する障害者等に対する支援について 2.障害者等の移動の支援について 3.障害者の就労支援について 4.障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方について 5.障害者の意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方について 6.手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の 障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の 在り方について 7.精神障害者に対する支援について 8.高齢の障害者に対する支援の在り方について 9.障害児支援について 10.その他の障害福祉サービスの在り方等について (参考) ・ 開催経緯 ・ 委員名簿 2 Ⅰ はじめに ○ 平成 25 年4月に施行された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するため の法律」(障害者総合支援法)の附則では、施行後3年を目途として障害福祉サービスの 在り方等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされてい る。 【障害者総合支援法附則第3条における見直し事項】 ・ 常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の 支援その他の障害福祉サービスの在り方 ・ 障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方 ・ 障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制 度の利用促進の在り方 ・ 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため 意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方 ・ 精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方 ○ このため、本部会では、平成 27 年4月から本格的に検討を開始し、計 45 団体からヒ アリングを行うとともに、計 19 回にわたって施策全般の見直しに向けた検討を行い、今 後の取組について本報告書として取りまとめた。 ○ 今後、本報告書に基づき、関係法律の改正や平成 30 年度に予定されている障害福祉サ ービスの次期報酬改定等に向けて、具体的な改正内容について検討を進め、財源を確保 しつつその実現を図るべきである。 ○ なお、平成 28 年 4 月には、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害 者差別解消法)が施行されるが、政府全体で同法の円滑な施行が図られるよう、関係省 庁と連携して取組を進めていくべきである。 3 Ⅱ 基本的な考え方 障害者総合支援法の施行後3年間の施行状況を踏まえ、今回の見直しの基本的な考え方 について、「1.新たな地域生活の展開」、「2.障害者のニーズに対するよりきめ細かな対 応」、「3.質の高いサービスを持続的に利用できる環境整備」の3つの柱に整理した。 1.新たな地域生活の展開 (1)本人が望む地域生活の実現 ○ 地域での暮らしが可能な障害者が安心して地域生活を開始・継続できるよう、地域 生活を支援する拠点の整備を進めるとともに、本人の意思を尊重した地域生活を支援 するための方策や重度障害者に対応したグループホームの位置付け等について、対応 を行う必要がある。 ○ 障害者の意思が適切に反映された地域生活を実現するため、障害福祉サービスの提 供に関わる主体等が、障害者の意思決定の重要性を認識した上で必要な対応を実施で きるよう、意思決定支援に取り組むとともに、成年後見制度の適切な利用を促進する 必要がある。 (2)常時介護を必要とする者等への対応 ○ 地域生活を送る上で特に手厚い介護等が必要な障害者に対し、利用者のニーズに応 じた柔軟な支援を行っていくため、入院中の重度障害者への対応や国庫負担基準につ いての小規模な市町村への配慮などについて、対応を行う必要がある。 (3)障害者の社会参加の促進 ○ 障害者の社会参加を促進するため、通勤・通学等に関する移動支援について、関係 省庁・関係施策と連携した取組を総合的に進めた上で、障害福祉サービスにおいて通 勤・通学に関する訓練の実施や入院中の移動支援の利用について対応を行う必要があ る。 ○ 就労移行支援や就労継続支援について、工賃・賃金向上や一般就労への移行促進に 向けた取組を一層進めるとともに、一般就労に移行した障害者が職場に定着できるよ う、就労定着に向けた支援を強化する必要がある。 4 2.障害者のニーズに対するよりきめ細かな対応 (1)障害児に対する専門的で多様な支援 ○ ライフステージに応じた切れ目の無い支援と保健、医療、福祉、保育、教育、就労 支援等と連携した地域支援体制の構築を図る観点から、個々の障害児やその家族の状 況・ニーズに応じて、気づきの段階からきめ細かく対応する必要がある。 ○ 乳児院や児童養護施設等に入所している障害児や重度の障害等のために外出が困 難な障害児に発達支援を提供できるよう必要な対応を行うとともに、医療的ケア児に 必要な支援を提供するため、障害児に関する制度の中で明確に位置付けるなどの対応 を行う必要がある。 ○ 放課後等デイサービスなどの障害児通所支援の質の向上と支援内容の適正化を図 るとともに、障害児支援に関するサービスを計画的に確保する取組を進める必要があ る。 (2)高齢の障害者の円滑なサービス利用 ○ 障害者が介護保険サービスを利用する場合も、必要なサービスが円滑に提供できる よう、障害福祉制度と介護保険制度との連携や、相談支援専門員と介護支援専門員と の連携などの取組を推進する必要がある。 ○ 障害者の高齢化に伴う心身機能の低下等に対応できるよう、人材育成や重度障害者 に対応したグループホームの位置付けなど、必要な対応を行うとともに、「親亡き後」 への準備を支援する取組を進める必要がある。 (3)精神障害者の地域生活の支援 ○ 精神障害者の地域移行や地域定着の推進に向けて、医療と福祉等の様々な関係者が 情報共有や連携を行う体制を構築するとともに、都道府県・保健所・市町村等の重層 的な役割分担・協働を進める必要がある。 ○ 地域移行や地域生活の支援に有効なピアサポートを担う人材等の育成・活用を進め るとともに、地域生活を支援する観点等から医療と福祉との連携を強化する必要があ る。 (4)地域特性や利用者ニーズに応じた意思疎通支援 ○ 意思形成や意思伝達に必要な意思疎通の支援について、障害種別ごとの特性やニー ズに配慮したきめ細かな対応や計画的な人材養成等を進める必要がある。 5 3.質の高いサービスを持続的に利用できる環境整備 (1)利用者の意向を反映した支給決定の促進 ○ 公平性や透明性を確保しつつ、利用者の意向が反映された適切な支給決定が行われ るよう、相談支援専門員や市町村職員の資質の向上等に向けた取組や障害支援区分に 係る制度の趣旨・運用等の徹底を図る必要がある。 (2)持続可能で質の高いサービスの実現 ○ 障害福祉サービスの質の確保・向上に向けて、サービス事業所の情報を公表する仕 組み、自治体が実施する事業所等への指導事務の効率化や審査機能の強化など、必要 な取組を推進するとともに、障害者に対して必要な支援を確実に保障するため、サー ビス提供を可能な限り効率的なものとすること等により、財源を確保しつつ、制度を 持続可能なものとしていく必要がある。 6 Ⅲ 各論点について 1.常時介護を要する障害者等に対する支援について (1) 現状・課題 (「常時介護」を要する障害者等に対する支援の現状) ○ 障害者総合支援法においては、障害者等が本人の意思に基づき地域生活を送ること ができるよう、個々の障害者等の状態像やニーズに対応した障害福祉サービスを提供 しており、特に手厚い介護等が必要な障害者等を「常時介護を要する者」とし、重度 訪問介護、行動援護、療養介護、生活介護及び重度障害者等包括支援を提供している。 (地域生活・地域移行の支援に関する課題) ○ 障害者等の地域生活・地域移行の支援をより一層推進する観点から、「常時介護を 要する者」に対するサービスに関する課題(重度障害者等包括支援の利用が低調であ ること、重度障害者が入院した時に必要な支援が受けられない場合があること等)へ の対応に加えて、地域生活・地域移行の受け皿の整備や、「定期的又は随時」の「生 活支援」を必要とする障害者等を支える仕組みの構築が求められている。 ○ 障害者の地域生活・地域移行の「受け皿」として重要なグループホームについては、 全国で整備が進められ、平成 27 年4月時点で約 10 万人が利用している。平成 29 年 度のサービス見込量は約 12 万人であり、必要な者が利用できるよう、サービス量を 確保していく必要がある。また、重度の障害者が適切な支援を受けながらグループホ ームで生活している事例もあり、利用者の重度化・高齢化への対応を進めていく必要 がある。 ○ 入院中の精神障害者に対して退院後の住みたい場所について質問したところ、24% が一人暮らし、8%がグループホームと回答しており、希望退院先としてグループホ ームだけでなく自宅や民間賃貸住宅での「一人暮らし」を希望する障害者も多い。一 方で、グループホームには、区分なし、区分1・2の者も多く入居している。こうし た中、「地域移行=グループホーム」との考え方に疑問を呈する指摘や、「一人暮らし」 に向けた支援を検討すべきとの指摘がある。 また、障害者等の居住支援については、一般社団法人高齢者住宅財団が実施する家 賃債務保証制度があるものの、実施状況には地域差が見られるのが現状である。 ○ 障害福祉サービスの需要が伸びている中で、例えば、短期入所、生活介護、居宅介 護(家事援助)等についても、サービスを必要とする障害者等に支援を行き届かせる 観点から、支援の必要性に応じた給付の在り方の見直し等を検討すべきとの指摘があ る。例えば、居宅介護については、実質的に相談目的で利用されている事例があると 7 の指摘もある。また、障害福祉サービスと併せて、ボランティア等も含めたインフォ ーマルサービスの活用を進めることや、社会の構成員として当事者自身が支え手とな ることも重要との指摘がある。 (人材の資質向上) ○ 訪問系サービスのサービス提供責任者については、実務経験3年以上の旧2級ヘル パーでも可能とする取扱いが平成 18 年以降続いているなど、人材の資質向上に向け た課題がある。また、重度障害者の支援には実地研修が重要との指摘がある一方で、 実地研修を評価する特定事業所加算の取得率が低調な状況である。 (「パーソナルアシスタンス」について) ○ 障害者の地域生活を支える仕組みとして、「パーソナルアシスタンス」の制度化を 望む声もある一方、サービスの質の確保、ダイレクトペイメント、財政面等に関する 課題も多いのではないかとの指摘がある。その目指すところは、利用者本人のニーズ に応じた柔軟な支援を可能とすべきとの趣旨ではないかと考えられる。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 「常時介護を要する者」だけでなく、「日常的」に「支援」を要する者なども含め、 地域生活・地域移行をきめ細かく展開するため、限られた財源の中で支援が必要な者 にサービスが行き渡るように留意しつつ、以下のような取組を進めるべきである。 (重度障害者を対象としたサービス) ○ 利用者のニーズに応じた柔軟な支援を行っていくために、常時介護を要する障害者 等を対象としたサービスについて、地域生活をさらに支援する観点から見直しを行う べきである。 具体的には、重度障害者等包括支援について、地域で家族と生活する重症心身障害 児者等のニーズに合わせて活用しやすいものとすべきである。また、重度障害者の地 域生活を支えている重度訪問介護を利用している者について、医療保険の給付範囲や 医事法制との関係を整理しつつ、入院中も医療機関で重度訪問介護により、一定の支 援を受けられるように見直しを行うべきである。あわせて、意思疎通支援事業が入院 中においても引き続き適切に利用されるよう、周知を図るべきである。 (地域生活を支援する拠点) ○ 「常時介護を要する者」であるか否かにかかわらず、地域での暮らしが可能な障害 者等が安心して地域生活を開始・継続できるよう、平成 27 年度に実施している地域 生活支援拠点に関するモデル事業の成果も踏まえつつ、地域で生活する障害者等に対 し、地域生活を支援する拠点の整備を推進すべきである。その際、グループホームに おける重度者への対応の強化、地域生活を支援する新たなサービスとの連携、医療と 8 の連携、短期入所による緊急時対応等を総合的に進めることにより、グループホーム、 障害者支援施設、基幹相談支援センター等を中心とする拠点の機能の強化を図る必要 がある。 (地域生活を支援するサービス等) ○ グループホームから一人暮らしへの移行を希望する知的障害者や精神障害者など について、本人の意思を尊重した地域生活を支援するため、障害者の一人暮らしを支 える仕組みを構築し、安心して一人暮らしへの移行ができるよう、障害者の日常生活 を適切に支援できる者による定期的な巡回訪問や随時の対応により、障害者の理解力、 生活力等を補う観点から、適時のタイミングで適切な支援を行うサービスを新たに位 置付けるべきである。その際、当該サービスの内容を踏まえつつ、他のサービスの利 用の在り方についても整理を行うべきである。 あわせて、障害者の地域移行の受け皿となるグループホームについて、重度障害者 に対応することができる体制を備えた支援等を提供するサービスを位置付け、適切に 評価を行うべきである。また、障害者の状態とニーズを踏まえて必要な者にサービス が行き渡るよう、利用対象者を見直すべきであり、その際には、現に入居している者 に配慮するとともに、障害者の地域移行を進める上でグループホームが果たしてきた 役割や障害者の状態・ニーズ・障害特性等を踏まえつつ詳細について検討する必要が ある。 ○ 障害者の居住支援の観点から家賃債務保証制度の活用が進むよう、当該制度につい て、積極的に周知を行うべきである。 (人材の資質向上) ○ 支援する人材の資質向上を図るため、サービスの従業者資格を引き上げるとともに、 熟練した従業者による実地研修の実施を促進すべきである。 9 2.障害者等の移動の支援について (1) 現状・課題 (移動支援の現状と課題) ○ 移動支援は障害者等の社会参加の促進や地域での自立した生活を支える上で重要 な支援である。 現在、障害者総合支援法に基づき、同行援護、行動援護、重度訪問介護及び居宅介 護の個別給付(義務的経費)についてはあらかじめ作成されたサービス等利用計画に 基づき基本的にはマンツーマンでサービスを提供するとともに、市町村の地域生活支 援事業(裁量的経費)については利用者の個々のニーズや地域の状況に応じて緊急時 の個別支援、グループ支援、車両移送などが実施されている。 ○ 移動支援については、市町村による地域生活支援事業の必須事業とされており、そ の実施割合は 90.5%となっているが、地域ごとに取組状況に差が見られることから、 利用者のニーズを踏まえた確実な実施を進めることが課題である。その際、地域の状 況(都市部、中山間地域、積雪の多い地域等)にも配慮する必要があるとの指摘があ る。 (通勤・通学等) ○ 各市町村の判断に応じて地域生活支援事業の中で実施されている障害者等の通 勤・通学に関する移動支援については、個別給付の対象とすること等さらなる充実を 求める意見がある。 一方、地域生活支援事業の方が地域特性や利用者ニーズに応じた柔軟な対応が可能 であるといったメリットがあるとともに、雇用障害者数及び就労移行支援利用者数は 合計約 66 万人、特別支援学校の小学部及び中学部の在学者数は合計約7万人にのぼ ること、障害者差別解消法の施行に伴う事業者や教育機関による「合理的配慮」との 関係、個人の経済活動と公費負担の関係、教育と福祉の役割分担の在り方等の課題が ある。 (入院中・入所中の外出・外泊) ○ 医療機関に入院中の外出・外泊に伴う移動支援については、十分な対応がなされて いない現状にある。 また、施設に入所中の外出・外泊に伴う移動支援については、施設サービスの「日 常生活上の支援」の一環として行われており、現行の障害福祉サービス等報酬におい て評価されているが、相応の人手や労力を要することから施設ごとに対応が異なって いる。 10 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 障害者総合支援法における移動支援については、所要の財源を確保しつつ、障害者 等に一定の社会生活を等しく保障するとともに、利用者の個々のニーズや地域の状況 に応じて柔軟に対応することができる仕組みとする必要がある。 こうした観点から、基本的には、現行の「個別給付」と「地域生活支援事業」によ る支援の枠組みを維持した上で、支援の実施状況等を踏まえつつ、ニーズに応じたき め細かな見直しを行うべきである。 (通勤・通学等) ○ 障害者等の通勤・通学等に関する移動支援については、福祉政策のみならず、関係 省庁とも連携し、事業者、教育機関、公共交通機関等による「合理的配慮」の対応、 教育政策や労働政策との連携、地方公共団体(福祉部局、教育委員会等)における取 組等を総合的に進めていくべきである。 その上で、福祉政策として実施すべき内容について引き続き検討を進めるとともに、 まずは、通勤・通学に関する訓練を就労移行支援や障害児通所支援により実施するこ ととし、これを必要に応じて評価すべきである。 (入院中・入所中の外出・外泊) ○ 医療機関に入院中の外出・外泊に伴う移動支援については、障害福祉サービス(同 行援護、行動援護、重度訪問介護)が利用できることを明確化すべきである。 また、施設に入所中の外出・外泊に伴う移動支援については、施設サービスの「日 常生活上の支援」の一環として行われるものであるが、施設による移動支援について 適切に評価が行われているか、引き続き検討すべきである。 11 3.障害者の就労支援について (1) 現状・課題 (就労系障害福祉サービス等の現状と課題) ○ 就労系障害福祉サービス(就労移行支援、就労継続支援)から一般就労に移行した 障害者の数は、平成 20 年度(障害者自立支援法施行時)1,724 人に対し、平成 25 年 度 10,001 人であり、5年間で約 5.8 倍となっている。また、民間企業(50 人以上) における障害者の雇用者数は約 43 万1千人(平成 26 年6月)、ハローワークを通じ た障害者の就職件数は約8万5千人(平成 26 年度)であり、いずれも年々増加して おり、特に精神障害者の伸びが大きい。 ○ 就労移行支援事業所については、一般就労への移行率(利用実人員に占める就職者 数)が 20%以上の事業所の割合が増加する一方、移行率が0%の事業所の割合は約 30%強で推移しており、移行率の二極化が進んでいる。 ○ なお、就労移行支援の標準利用期間(2年間)について、訓練期間としては短い障 害者もいることから、これを延ばすべきとの意見がある一方、期間を延ばせばかえっ て一般就労への移行率が下がってしまうおそれがあり、むしろ、就労継続支援も組み 合わせ、利用者の状態に応じた支援を行っていくべきとの意見もある。 ○ 平成 25 年度において、就労継続支援A型事業所から一般就労へ移行した者の割合 は 4.9%、就労継続支援B型事業所から一般就労へ移行した者の割合は 1.6%となっ ており、サービスを利用する中で能力を向上させ、一般就労が可能になる者もいる。 また、B型事業所の一人当たり平均工賃月額(平成 25 年度)は、約 17%の事業所で 2万円以上の工賃を実現している一方、約 40%の事業所で工賃が1万円未満であり、 厚生労働省が定める運営基準(3千円)に達していない事業所も存在する。 ○ 障害者就労施設等の受注機会を確保するため、平成 25 年4月に「国等による障害 者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」が施行され、調達件数や金 額は伸びているものの、地域によって調達実績に差が見られる状況である。 (就労定着支援) ○ 障害者の就労定着支援について、就業面の支援は、基本的には企業の合理的配慮や 労働政策の中で行われるべきものであるが、また、就業に伴う生活面の支援は、障害 者就業・生活支援センター(生活支援員)や就労移行支援事業所が中心となって実施 している。 ○ 障害者雇用促進法の法定雇用率については、平成 30 年度から精神障害者の雇用に ついても算入される予定である。 12 今後、在職障害者の就業に伴う生活上の支援ニーズはより一層多様化かつ増大する ものと考えられる。企業に雇用された障害者の早期離職を防ぎ、職場に定着すること は、障害者の自立した生活を実現するとともに、障害福祉サービスを持続可能なもの とする観点からも重要である。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ どの就労系障害福祉サービスを利用する場合であっても、障害者がその適性に応じ て能力を十分に発揮し、自立した生活を実現することができるよう、工賃・賃金向上 や一般就労への移行をさらに促進させるための取組を進めるべきである。また、就業 に伴う生活面での課題等を抱える障害者が早期に離職することのないよう、就労定着 に向けた支援を強化するための取組を進めるべきである。 (就労移行支援) ○ 就労移行支援については、平成 27 年度報酬改定の効果も踏まえつつ、一般就労へ の移行実績を踏まえたメリハリを付けた評価を行うべきである。あわせて、支援を行 う人材の育成(実地研修を含む。)や支援のノウハウの共有等を進めるべきである。 (就労継続支援等) ○ 就労継続支援については、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して 就業の機会の提供等を行うこととしており、こうしたサービスを利用する中で、能力 を向上させ一般就労が可能になる障害者もいることから、一般就労に向けた支援や一 般就労への移行実績も踏まえた評価を行うべきである。 また、就労継続支援B型については、高工賃を実現している事業所を適切に評価す るなど、メリハリをつけるべきである。就労継続支援A型については、事業所の実態 が様々であることを踏まえ、利用者の就労の質を高め、適切な事業運営が図られるよ う、運営基準の見直し等を行うべきである。 さらに、一般就労が困難な障害者に対して適切に訓練が提供され、障害者が自らの 能力を最大限発揮し、自己実現できるよう支援するため、就労継続支援B型の利用希 望者に対して本年度から本格実施されている就労アセスメントの状況把握・検証を行 うとともに、その効果的かつ円滑な実施が可能な体制を整備しつつ、対象範囲を拡大 していくべきである。 ○ 「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」に基づ く官公需に係る障害者就労施設等からの物品や役務の調達の推進については、障害者 就労施設等で就労する障害者の自立の促進に資するものであることから、地方公共団 体に対する調達事例の提供や調達方針の早期策定を促すなど、受注機会の増大が図ら れるよう、必要な取組を推進すべきである。 13 (就労定着に向けた生活面の支援を行うサービス等) ○ 在職障害者の就業に伴う生活上の支援ニーズに対応するため、財源の確保にも留意 しつつ、就労定着支援を強化すべきである。具体的には、就労系障害福祉サービスを 受けていた障害者など、就労定着に向けた支援が必要な障害者に対し、一定の期間、 労働施策等と連携して、就労定着に向けた支援(企業・家族との連絡調整や生活支援 等)を集中的に提供するサービスを新たに位置付けるべきである。 ○ 就労定着に当たっては、企業の協力も重要であることから、障害者就業・生活支援 センター事業の充実や企業に対する情報・雇用ノウハウの提供など、引き続き、労働 政策との連携を図るべきである。 (サービス内容の情報公表) ○ 就労系障害福祉サービスについて、障害者やその家族等が適切な事業所を選択でき るよう、事業所の事業内容や工賃・賃金、一般就労への移行率、労働条件等に関する 情報を公表する仕組みを設けるべきである。 14 4.障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方について (1) 現状・課題 (支給決定プロセスの現状と課題) ○ 支給決定については、申請者に必要な支援を総合的に評価した上で、市町村が障害 福祉制度による給付の範囲と具体的内容について判断するものであり、申請者の利用 意向を適切に勘案するため、平成 24 年度よりサービス等利用計画案の提出を求め、 その内容を勘案事項に含めることとし、平成 27 年度からは全ての申請者について、 サービス等利用計画案の提出が義務付けられているが、一部作成率が低調な市町村が あり、平成 27 年6月末現在、全国平均で約8割の作成率となっている。 ○ 利用者本人の意向、家族の状況も含めた本人が置かれた環境等を客観的に把握しつ つ、最適な支援につなげるため、適切なサービス等利用計画案の作成など、計画相談 支援の質の向上を図ることが必要であるとともに、基幹相談支援センターなどを含め た相談支援体制の更なる充実が求められている。 また、利用者の意向をより適切に反映した支給決定を行うため、支給決定前にサー ビス担当者会議を開催するなどの工夫も有効ではないかとの意見がある。 (障害支援区分の認定) ○ 障害者自立支援法施行時に導入された障害程度区分については、支給決定における 公平性や透明性の確保のため、支給決定の勘案事項とされるとともに、報酬の設定や 一部サービスの利用要件として用いられていた。平成 26 年度には、名称を「障害支 援区分」に改めるとともに、障害特性をより適切に評価するため、認定調査項目や各 調査項目における判断基準の見直しが行われた。平成 26 年4月から9月までの審査 判定実績においては、障害支援区分の導入前に比べ、知的障害や精神障害を中心に2 次判定での引上げ割合が低下しているが、一方で、当該割合には地域差が見られるこ とや、従来と比べて上位区分の割合が上昇しているのではないかとの指摘がある。 ○ 障害支援区分の認定調査においては、本人以外の支援者等から聞き取りを行うこと や、医師意見書に別途専門職等から求めた意見を添付することができる仕組みとなっ ている。一方、認定調査員等の研修事業については、その研修内容等について標準的 なものがないとの指摘がある。 (国庫負担基準) ○ 国庫負担基準は、限りある国費を公平に配分し市町村間のサービスのばらつきをな くすために市町村に対する国庫負担(精算基準)の上限を定めたものであって、個人 のサービス量を制限するものではなく、その額の設定に当たっては、市町村の給付実 績を踏まえつつサービスの種類ごとに障害支援区分に応じたものとされているが、国 庫負担基準内で賄うことができるサービス量以上を必要とする重度障害者に対して 15 適切な支給決定が行われていないとの指摘がある。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 現行の支給決定プロセスについては、関係者の資質の向上など様々な課題が指摘さ れている一方で、公平性や透明性を確保しつつ、サービス等利用計画案の作成過程等 を通じて、利用者の意向が反映される仕組みとなっていると考えられることから、基 本的には現行の仕組みにおいてより適切な支給決定が行われるよう以下のような取 組を進めるべきである。 (相談支援の取組等) ○ 都道府県・市町村の協議会の機能強化やこれを通じた相談支援の取組の充実を図る とともに、基幹相談支援センター等の設置やこれによる取組を推進すべきである。 こうした取組を進めるためには、市町村が適切にマネジメントを行うとともに、そ の職員の資質向上を図る必要がある。また、支給決定に関わる関係者において、利用 者の状況をより適切に反映できる仕組みを工夫していく必要もある。 ○ 計画相談支援については、利用者本人にとって最適な支援につなげることができる よう、相談支援専門員の確保と資質の向上に向け、実地研修の実施を含めた研修制度 の見直しや指導的役割を担う人材(主任相談支援専門員(仮称))の育成を行うとと もに、こうした人材の適切な活用を進めるべきである。なお、主任相談支援専門員の 育成に当たっては、求められる支援技術、育成のカリキュラム、実務経験の評価等の 在り方を検討する必要がある。 (障害支援区分の認定) ○ 障害支援区分及びその役割については、2次判定の引上げ割合に地域差が見られる ことなどの指摘があることから、その要因を分析し、判定プロセス(1次判定・2次 判定)における課題を把握した上で、その結果を踏まえて、必要な改善策を検討すべ きである。また、市町村ごとの審査判定実績等必要な情報を国が把握し、自治体に対 して継続的に提供するなど、認定事務の適正な運用を図るべきである。 ○ 障害支援区分に係る制度の趣旨や運用等について周知を行う等、制度の普及・定着 に向けた取組を徹底するとともに、全国の都道府県において、認定調査員等を対象に、 それぞれの障害特性にも対応した標準的な研修が実施できるよう、国において研修会 用の資料を作成する等の方策を講じるべきである。 (国庫負担基準) ○ 国庫負担基準については、財源の確保にも留意しつつ、重度障害者が多いこと等に より訪問系サービスの支給額が国庫負担基準を超過せざるを得ない小規模な市町村 により配慮した方策を講じるべきである。 16 5.障害者の意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方につ いて (1) 現状・課題 (意思決定支援の現状と課題) ○ 障害者総合支援法においては、 ・ 障害者が「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保」される旨を規定 (第1条の2 基本理念) ・ 指定事業者や指定相談支援事業者に対し、障害者等の意思決定の支援に配慮する よう努める旨を規定(第 42 条、第 51 条の 22) するなど、「意思決定支援」を重要な取組として位置付けている。 ○ 現在、意思決定支援の定義・意義・仕組み等を明確化するためのガイドラインの策 定に向けた調査研究が進められているが、今後、当該ガイドラインを関係者の間で共 有し、その普及や質の向上に向けた取組を進めていく必要がある。 その際、意思決定支援は、相談支援をはじめとした障害福祉サービスの提供におい て当然に考慮されるべきものであり、特別なサービス等として位置付けるような性質 のものではないことに留意が必要である。 ○ 精神障害者については、障害者総合支援法における意思決定支援のほか、精神保健 福祉法改正(平成 25 年)の附則に、入院中の処遇や退院等に関する意思決定や意思 表明の支援の在り方に関する検討規定が置かれており、また、平成 24 年度から継続 的に「精神障害者の意思決定支援に関する調査研究」が実施されている。 (成年後見制度) ○ 成年後見制度の利用促進に向け、障害者総合支援法に基づき、市町村において地域 生活支援事業(必須事業)が実施されている。 ・ 成年後見制度 利用支援事業(申立て経費、後見人等の報酬等の補助)【1,360 市 町村で実施】 ・ 成年後見制度 法人後見支援事業(法人後見の実施に向けた研修、組織体制の構 築支援 等)【207 市町村で実施】 ○ 一方で、現行の成年後見制度については、 ・ 成年後見制度の利用形態に偏りがあり、「後見」の利用者が「保佐」や「補助」 の利用者に比べて非常に多く、適切な後見類型が選択されていないのではないか ・ 担い手の確保や支援の質の向上(本人の意思の尊重や身上の配慮等)が必要なの ではないか ・ 医療同意の在り方等の課題についての検討が必要なのではないか 17 ・ 障害者権利条約第 12 条との関係を整理する必要があるのではないか などの指摘がなされている。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 日常生活や社会生活等において障害者の意思が適切に反映された生活が送れるよ う、障害福祉サービスの提供に関わる主体等が、障害者の意思決定の重要性を認識し た上で、必要な対応を実施できるようにするとともに、成年後見制度の適切な利用を 促進するため、以下のような取組を進めるべきである。 (意思決定支援ガイドライン) ○ 意思決定支援の定義や意義、標準的なプロセス(サービス等利用計画や個別支援計 画の作成と一体的に実施等)、留意点(意思決定の前提となる情報等の伝達等)等を 取りまとめた「意思決定支援ガイドライン(仮称)」を作成し、事業者や成年後見の 担い手を含めた関係者間で共有し、普及を図るべきである。あわせて、意思決定支援 の質の向上を図るため、このようなガイドラインを活用した研修を実施するとともに、 相談支援専門員やサービス管理責任者等の研修のカリキュラムの中にも位置付ける べきである。 なお、ガイドラインの普及に当たっては、その形式的な適用にとらわれるあまり、 実質的な自己決定権が阻害されることのないよう留意する必要がある。 (障害福祉サービスにおける意思決定支援) ○ 障害福祉サービスの具体的なサービス内容の要素として「意思決定支援」が含まれ る旨を明確化すべきである。 (入院中の精神障害者の意思決定支援) ○ 入院中の精神障害者の意思決定支援については、計画相談支援や地域移行支援とい った障害福祉サービスの利用に関して、上記のような対応を検討するとともに、精神 保健福祉法改正(平成 25 年)に係る検討規定に基づく見直しの中でもさらに検討す べきである。 (成年後見制度の利用支援等) ○ 「親亡き後」への備えも含め、障害者の親族等を対象とし、成年後見制度利用の理 解促進(例えば、支援者に伝達するために作成する本人の成長・生活に関わる情報等 の記録の活用)や、個々の必要性に応じた適切な後見類型の選択につなげることを目 的とした研修を実施すべきである。 ○ 成年後見制度そのものの課題については、当部会の調査審議事項を超えるものであ るが、当部会における議論の内容については、内閣府に設置されている障害者政策委 員会や法務省に伝え、今後の議論に活かされるようにしていくべきである。 18 6.手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能 その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者 等に対する支援の在り方について (1) 現状・課題 (意思疎通支援の現状と課題) ○ 障害者等の「どこで誰と生活するかについての選択の機会」を確保するためには、 選択に必要な情報へのアクセスと選択内容の伝達に向けた意思疎通支援が重要であ る。また、意思疎通支援には、社会参加の促進と安全確保の側面がある。障害者総合 支援法においては、居宅介護、同行援護、生活介護、自立訓練等の個別給付と、人材 の養成・派遣、日常生活用具の給付等を実施する地域生活支援事業により支援が行わ れており、手話通訳者の養成・設置・派遣、要約筆記者の養成・派遣、盲ろう者向け 通訳・介助員の養成・派遣は地域生活支援事業の必須事業として位置付けられている。 ○ 平成 28 年度に障害者差別解消法が施行されることから、教育、労働等の他施策と の連携など、各分野における「合理的配慮」との関係に留意する必要がある。なお、 その際には、制度の縦割りによる谷間を作らないように留意することが重要である。 (意思疎通支援者の人材養成) ○ 地域生活支援事業の各メニューに関する利用状況やニーズを把握するとともに、意 思疎通支援者の指導者養成や、司法・医療等の専門性を有する意思疎通支援者の養成 など、人材養成の体制を整備していく必要がある。その際、研修の内容については、 実践的な面を重視すべきである。 ○ 今後の中長期的な人材確保に向けた検討に当たっては、点訳や音訳等は多くのボラ ンティアの協力を得て実施されていることや、専門的な人材の処遇の在り方に留意す る必要があるとの指摘がある。 (地域生活支援事業等の活用) ○ 地域生活支援事業等における支援が主に視覚・聴覚・言語・音声機能障害の者を念 頭に置いたものとなっていること等のため、盲ろう、失語症、知的障害、発達障害、 高次脳機能障害、難病、重度の身体障害のある者などに向けた支援の充実が必要との 指摘がある。また、小規模な自治体における事業の実施も確保していく必要がある。 ○ 視覚障害者情報提供施設(点字図書館)は、全国に 76 施設あり、点字刊行物や視 覚障害者用の録音物の制作・貸出、情報機器の貸出、視覚障害者に関する相談事業等 を実施している。また、聴覚障害者情報提供施設は、全国に 51 施設あり、聴覚障害 者が利用する字幕(手話)入りの録画物の制作・貸出、手話通訳者・要約筆記者の派 遣、情報機器の貸出、聴覚障害者に関する相談事業等を実施している。 19 (支援機器の開発と活用) ○ 障害者自立支援機器等開発促進事業により、意思疎通支援に係る支援機器等の開発 を進めており、障害者やその家族・支援者による活用が進むような情報提供等が課題 となっている。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 意思疎通支援については、基本的に現行の支援の枠組みを継続しつつ、盲ろう、失 語症など障害種別ごとの特性やニーズに配慮したきめ細かな見直しを行うべきであ る。 (計画的な人材養成とサービス提供等) ○ 地域のニーズに応じた人材養成や意思疎通支援のサービス提供に資するよう、各自 治体において意思疎通支援事業の現状(利用者数、利用回数・時間等)に関する調査 を行い、その結果を踏まえ、合理的配慮の進捗状況に留意しつつ、必要な意思疎通支 援者を計画的に養成するとともに、提供すべきサービス量の目標を設定すべきである。 ○ 意思疎通支援について各障害種別の専門性を高めるとともに、司法、医療等の専門 分野への対応を図るため、手話通訳士・者、要約筆記者、点訳者、盲ろう者向け通訳・ 介助員等の指導者養成を強化すべきである。その際、障害特性に応じて多様な意思疎 通の手法があることに留意する必要がある。 ○ 小規模な市町村で事業実施が困難・不十分な場合に、都道府県や近隣市町村による 事業補完・代替実施の取組を進めるべきである。また、災害時に自治体が意思疎通支 援を提供する体制について、平時からの取組を強化すべきである。 (地域生活支援事業等の活用) ○ 地域生活支援事業等について、失語症、知的障害、発達障害、高次脳機能障害、難 病、重度の身体障害のある者が、意思疎通支援者の養成・派遣に関する事業の対象で あることを明確化すべきである。また、情報通信技術の活用等を通じた効果的・効率 的な支援の提供を工夫すべきである。 (支援機器の活用促進等) ○ 意思疎通支援に係る支援機器について、障害特性に応じた支援が可能となるよう、 引き続き実用化に向けた開発支援を進めるべきである。また、支援機器の活用・利用 支援や意思疎通支援に関する相談・情報提供について、視覚障害者情報提供施設・聴 覚障害者情報提供施設等の活用により、地域における支援体制を整備すべきである。 その際、一般の図書館や学校図書館等との連携も視野に入れるべきである。 20 7.精神障害者に対する支援について (1) 現状・課題 (精神障害者の地域移行・地域生活の支援) ○ 精神科病院では、新規入院者の 87%が 1 年未満で退院する一方で、約 20 万人が1 年以上入院しており、毎年5万人の長期入院者が退院し、新たに5万人が長期入院者 となっている状況である。精神障害者が長期入院に至る要因を分析して対応していく ことが必要である。 ○ これまで、精神保健福祉法改正(平成 25 年)や、「長期入院精神障害者の地域移行 に向けた具体的方策に係る検討会」における取りまとめを踏まえ、予算措置(平成 26 年度・平成 27 年度)や障害福祉サービス等報酬改定(平成 27 年度)による対応、他 制度との連携強化等が実施されており、今後も、精神障害者のさらなる地域移行と地 域生活の支援を進めていく必要がある。 ○ 精神障害者の地域移行や地域生活において有効とされるピアサポートについては、 自治体ごとに取り組まれている状況がある。 ○ 精神障害者の地域移行・地域生活の支援を進めるためには、精神障害の特性が地域 において正しく理解される必要がある。このため、住民と医療・保健・福祉の関係者 が精神障害者に対する理解を深めるとともに、支援に向けた連携体制を構築する必要 がある。あわせて、相談機能の強化や人材育成が重要である。 (精神障害者の特性に応じた対応等) ○ 精神疾患の特性として、安定していた病状がわずかな環境の変化等により増悪する ことがあり、これに対応した適切な医療の支援が必要であることから、医療と福祉が 連携し、病院への入院の他に、症状の急変時の受け皿を確保することが重要である。 ○ 福祉事業所における精神障害者の受け入れ体制を整備するため、精神疾患の症状や それに応じた支援方法等の特性について福祉事業所の理解を促進することが必要で ある。 例えば、高次脳機能障害のある者(児童を含む。)は医療機関や障害福祉サービス 事業所で受け止めきれていないとの指摘がある。 ○ 精神障害者の地域生活支援を進めるためには、医療と福祉が緊密に連携しつつ、そ れぞれのサービスを確保していく必要がある。例えば、県レベルで定めている長期在 院者数の削減目標を、市町村の障害福祉計画における障害福祉サービスの見込量に適 切に反映することが重要である。その際、地域移行後に想定される精神障害者の居住 地についても留意することが望ましい。 21 ○ 精神障害者の居住の場を確保するためには、安心居住政策研究会(国土交通省)に おける中間取りまとめ(平成 27 年4月 17 日公表)を踏まえつつ、障害者総合支援法 に基づく協議会と居住支援協議会が連携して対応することが重要である。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 医療・福祉や行政機関など精神障害者を取り巻く様々な関係者が、本人の意向を尊 重し、 精神障害の特性を十分に理解しつつ、連携・協働して精神障害者の地域移行・ 地域生活の支援の取組を強化するため、以下のような取組を進めるべきである。 (ピアサポート) ○ 地域移行や地域生活の支援に有効なピアサポートについて、その質を確保するため、 ピアサポートを担う人材を養成する研修を含め、必要な支援を行うべきである。 (医療と連携した短期入所) ○ 精神障害者の地域生活の支援と家族支援の観点から、短期入所について、医療との 連携を強化すべきである。 (地域生活を支援する拠点とサービス) ○ 精神障害者の地域移行や地域定着を支援するためにも、平成 27 年度に実施してい る地域生活支援拠点に関するモデル事業の成果も踏まえつつ、地域で生活する障害者 に対し、地域生活を支援する拠点の整備を推進すべきである。その際、グループホー ムにおける重度者への対応の強化、地域生活を支援する新たなサービスとの連携、医 療との連携、短期入所による緊急時対応等を総合的に進めることにより、グループホ ーム、障害者支援施設、基幹相談支援センター等を中心とする拠点の機能の強化を図 る必要がある。 ○ 一人暮らしを希望する精神障害者の地域生活を支援し、ひいては精神障害者の居住 の場の確保につながるよう、障害者の日常生活を適切に支援できる者による定期的な 巡回訪問や随時の対応により、障害者の生活力等を補い、適時のタイミングで適切な 支援を行うサービスを新たに位置付けるべきである。なお、その際には、医療との連 携や情報技術の活用など、効果的・効率的な実施方法を検討する必要がある。 ○ 精神科病院の入院者の退院意欲を喚起するため、医療と福祉の連携に向け、相談支 援の取組の充実や、意思決定支援の質の向上や普及に取り組むとともに、地域移行に 向けたサービスの体験利用の活用を推進すべきである。 (市町村等の役割) ○ 住民に最も身近な基礎的自治体である市町村が中心となり、当事者を含め、医療と 22 福祉の双方を含む様々な関係者が情報共有や連携体制を構築する場として、市町村に 精神障害者の地域移行や地域定着を推進するための協議の場の設置を促進するとと もに、都道府県・保健所・市町村が適切かつ重層的な役割分担をしながら協働して取 り組むための体制を構築すべきである。その際、地域移行後に想定される精神障害者 の居住地についても留意することが望まれる。 ○ 都道府県障害福祉計画に記載される精神障害者の長期在院者数の削減目標を、市町 村障害福祉計画に記載される障害福祉サービスのニーズの見込量に反映させる方法 を提示すべきである。 (人材の資質向上) ○ 精神障害者の特性とそれに応じた適切な対応方法について、研修の標準化や実地研 修の活用など、必要な知識・技術を持った福祉に携わる人材の育成を推進すべきであ る。 例えば、今なお障害福祉サービスで十分な対応ができていない高次脳機能障害のあ る者(児童を含む。)について、支援拠点機関の実態や支援ニーズに関する調査、有 効な支援方法やそれを担う人材養成の研修の在り方についての研究を進める必要が ある。 23 8.高齢の障害者に対する支援の在り方について (1) 現状・課題 (障害福祉制度と介護保険制度) ○ 障害者総合支援法第7条に基づく介護保険優先原則については、公費負担の制度よ りも社会保険制度の給付を優先するという社会保障制度の原則に基づいている。この 原則の下では、サービス内容や機能から、介護保険サービスには相当するものがない 障害福祉サービス固有のものと認められるサービスについては、障害者総合支援法に 基づき給付を受けることが可能となっている。 ○ 一方、これまで障害福祉制度を利用してきた障害者が介護保険サービスを利用する に当たって以下のような課題が指摘されている。 ・ 介護保険サービスを利用する場合、これまで利用していた障害福祉サービス事業 所とは別の事業所を利用することになる場合がある。 ・ 障害福祉制度の利用者負担は、これまでの軽減措置によって介護保険制度の利用 者負担上限と異なっていることから、介護保険サービスを利用する場合、介護保険 制度の利用者負担が生じる。 ・ 障害福祉サービスについて市町村において適当と認める支給量が、介護保険の区 分支給限度基準額の制約等から介護保険サービスのみによって確保することがで きない場合は、障害福祉制度による上乗せ支給がなされる取扱いとされているが、 自治体によっては、障害福祉サービスの上乗せが十分に行われず、介護保険サービ スの利用に伴って支給量が減少する要因となっている。 ○ 障害福祉サービスと介護保険サービスを併給する事例や、高齢化に伴い、障害者を 支援する親が要介護者となる事例など、障害福祉制度と介護保険制度の緊密な連携が 必要となっている。その際には、相談支援専門員と介護支援専門員との連携も重要で ある。 ○ 居住地特例(障害福祉制度)により障害者支援施設等に入所した障害者については、 障害者支援施設等が住所地特例(介護保険制度)の対象となっていないことから、障 害者支援施設等所在地と異なる市町村の介護保険施設等に移行した場合、それに係る 費用などは、当該障害者支援施設等のある自治体の負担となっている。 ○ 65 歳以上になって初めて障害福祉サービスを利用しようとする者について、介護保 険制度との関係を踏まえたときに、障害福祉制度の利用を認めることが適当かという 指摘がなされている。 24 (障害者の高齢化に伴う心身機能の低下等への対応) ○ 高齢化による障害者の心身機能の低下に伴い、従来の事業所の体制・人員では十分 な支援が行えなくなっているとの指摘がなされている。また、障害者自身も日中活動 への参加が困難となったり、若年者と同様の日中活動ができなくなっている等の指摘 がある。 ○ 障害福祉サービス事業所では高齢者に対応するノウハウが、介護保険事業所では障 害者に対応するノウハウが、それぞれ乏しく、それぞれの事業所における支援技術の 向上が必要である。 ○ 65 歳未満の障害者で親と同居している知的障害者は 90.7%、精神障害者は 65.7% となっており、親と生活している割合が高い。親による支援は、生活全般にわたる場 合もあり、「親亡き後」は生活を総合的に支援する者が失われることになる。 一方、夫婦で暮らしている知的障害者は 5.1%、精神障害者は 25.4%。子と暮らし ている知的障害者は 4.3%、精神障害者は 16.7%となっており、親以外の支援者が少 ないため、「親亡き後」に親に代わる支援者が必ずしもいる状況ではない。 ○ 「親亡き後」に備えて、当該障害者がどのような課題を抱えているか、それに対し て何を準備しなければならないかを明確にするため、一部の地域では、支援者に伝達 するために作成する本人の成長・生活に関わる情報等の記録が、親族等を対象とした 研修の中で活用されている。なお、遺産相続に当たって、本人が不当な取扱いを受け ないよう留意する必要があるとの指摘もある。 また、「親亡き後」に親以外の者が支援することができる状況を作るためには、親 がいる間に準備しておくことが重要との指摘がある。 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 日本の社会保障は、自助を基本としつつ、共助が自助を支え、自助・共助で対応で きない場合に社会福祉等の公助が補完する仕組みを基本とすることを踏まえると、現 行の介護保険優先原則を維持することは一定の合理性があると考えられる。そのもと で、介護保険サービスの利用に当たっての課題への対応について以下のような取組を 進めるべきである。 ○ その際、障害福祉制度と介護保険制度との関係や長期的な財源確保の方策を含めた 今後の在り方を見据えた議論を行うべきである。この点については、障害福祉制度と 介護保険制度は制度の趣旨・目的等が異なるとの意見や両制度の関係は共生社会の実 現の観点から検討すべきとの意見もあることに留意する必要がある。 25 (障害福祉制度と介護保険制度の連携) ○ 障害福祉サービスを利用してきた障害者が、相当する介護保険サービスを利用する 場合も、それまで当該障害者を支援し続けてきた障害福祉サービス事業所が引き続き 支援を行うことができるよう、利用者や事業者にとって活用しやすい実効性のある制 度となるよう留意しつつ、その事業所が介護保険事業所になりやすくする等の見直し を行うべきである。 ○ 障害福祉制度と介護保険制度の両制度の連携を推進するため、協議会(障害者総合 支援法)と地域ケア会議及び基幹相談支援センターと地域包括支援センターとの連携 の推進に向け、地域の実情に応じた窓口の一元化等や弾力的な運用等による連携の好 事例の収集と普及等を通じて、全国的に連携の推進を図るとともに、障害福祉計画と 介護保険事業(支援)計画が一層調和のとれたものとなる方策を検討の上、講じるべ きである。その際、連携が実効性のあるものとなるよう、基幹相談支援センター等に よる取組を推進する必要がある。 ○ 相談支援専門員と介護支援専門員の連携を推進するため、両者の連携が相談支援事 業及び居宅介護支援事業が行うべき業務に含まれる旨を明確にするとともに、それぞ れの視点の理解を促進するための研修等の方策を講じるべきである。また、介護保険 サービスの利用に当たって、円滑なサービスの利用ができるよう、相談支援専門員の モニタリングの頻度について、モニタリングの実態を踏まえつつ、見直しを行うべき である。 加えて、65 歳を超えても引き続き同一の者による対応等を推進するため、相談支援 専門員と介護支援専門員の両方の資格を有する者の拡大のための方策を講じるべき である。 ○ 介護保険サービスの利用に伴う利用者負担については、従来利用してきた障害福祉 サービスと同様のサービスを利用するにも関わらず、利用者負担が発生するといった 課題があることを踏まえ、一般高齢者との公平性や介護保険制度の利用者負担の在り 方にも関わることに留意しつつ、その在り方についてさらに検討すべきである。 ○ 介護保険制度移行に関する現行の取扱いを踏まえ、介護保険給付対象者の国庫負担 基準については、財源の確保にも留意しつつ、見直しを行うべきである。 ○ 障害者支援施設等に入所していた障害者が退所して、介護保険施設等に入所する場 合の住所地特例の適用については、見直すべきである。この見直しについては、次期 介護保険制度の見直しにおける介護保険適用除外施設全体に係る住所地特例の検討 も踏まえ、対応すべきである。 ○ 介護保険施設等に移行する障害者の特性を理解した支援を実施するため、送り出し 側の障害福祉サービス事業所と受け入れ側の介護保険施設等の連携に向けた方策や 26 受け入れに当たっての適切な支援の方策を講じるべきである。 ○ 65 歳以上になって初めて障害を有する状態になった場合の障害福祉サービスの利 用については、現行の介護保険優先原則の下で適切に運用される必要がある。なお、 この原則の下では、サービス内容や機能から、介護保険サービスには相当するものが ない障害福祉サービス固有のものと認められるサービスについては、障害者総合支援 法に基づき給付を受けることが可能となっている。 (障害者の高齢化に伴う心身機能の低下等への対応) ○ 高齢化に伴い心身機能が低下した障害者に対応するための技術・知識を高めるため、 障害福祉サービス事業所に対する研修に心身機能の低下した障害者支援の手法など を位置付けるべきである。 ○ グループホームにおいて、高齢化に伴い重度化した障害者に対応することができる 体制を備えた支援や日中活動を提供するサービスを位置付け、適切に評価を行うべき である。なお、その際には、入居者の高齢化や障害特性に配慮しつつ、医療との連携 についても留意する必要がある。 ○ 地域で生活する高齢障害者等に対し、平成 27 年度に実施している地域生活支援拠 点に関するモデル事業の成果も踏まえつつ、地域生活を支援する拠点の整備を推進す べきである。その際、グループホームにおける重度者への対応の強化、地域生活を支 援する新たなサービスとの連携、医療との連携、短期入所における緊急時対応等を総 合的に進めることにより、グループホーム、障害者支援施設、基幹相談支援センター 等を中心とする拠点の機能の強化を図る必要がある。 ○ 「親亡き後」への備えも含め、障害者の親族等を対象とし、成年後見制度利用の理 解促進(例えば、支援者に伝達するために作成する本人の成長・生活に関わる情報等 の記録の活用)や、個々の必要性に応じた適切な後見類型の選択につなげることを目 的とした研修を実施すべきである。 ○ 「親亡き後」に向けて、適切な助言を行い、親が持つ支援機能を補完し、障害福祉 サービス事業者、成年後見人、自治体、当事者・家族など様々な関係者で当該障害者 を支えるためのチームづくりを主導するため、主任相談支援専門員(仮称)を創設す べきである。 27 9.障害児支援について (1) 現状・課題 (障害児支援の現状と課題) ○ 障害児支援については、平成 24 年児童福祉法改正において、障害児や家族にとっ て身近な地域で必要な発達支援を受けられるよう、障害種別ごとに分かれていた障害 児の給付体系が通所・入所の利用形態別に一元化されるとともに、放課後等デイサー ビスや保育所等訪問支援が創設された。 ○ 保育所や放課後児童クラブにおける障害児の受入れについては、例えば、障害児を 受け入れる放課後児童クラブに対して、専門的知識等を有する放課後児童支援員等を 配置するために必要な経費について補助を行うことなどにより、年々着実に進んでお り(約2万8千人(平成 26 年5月))、また、乳児院や児童養護施設等の児童福祉施 設に入所する障害児数が増加するなど、一般施策等における対応が拡大している。 ○ 乳児院や児童養護施設等の児童福祉施設に虐待等により入所している障害児や、重 度の障害や疾病等により外出が困難であるために在宅で生活する障害児に対する発 達支援については、必ずしも十分に届いていない状況にあるとの指摘がある。 ○ 在宅で生活している障害児の支援については、保育等の他制度との連携や、入所支 援の機能の活用についても留意する必要がある。 (医療的ケア児への支援) ○ 医療技術の進歩等を背景として、NICU 等に長期間入院した後、人工呼吸器等を使用 し、たんの吸引などの医療的ケアが必要な障害児(医療的ケア児)が増加している。 このような医療的ケア児が在宅生活を継続していこうとする場合、障害児に関する制 度の中で医療的ケア児の位置付けが明確ではないこと等から、必要な福祉サービスが 受けにくいほか、医療、福祉、教育等の関係機関との連携が十分ではないこと等から、 家庭に大きな負担がかかっているとの指摘がある。 (適切なサービスの確保と質の向上) ○ 放課後等デイサービスについては、量的な拡大が著しく、その費用額は 1,024 億円 (平成 26 年度)で対前年比5割近くの伸び、その事業所数及び利用者数は対前年比 で3割近くの伸びとなっており、特に営利法人が数多く参入している。 さらに、単なる居場所となっている事例や、発達支援の技術が十分ではない事業所 が軽度の障害児を集めている事例があるとの指摘がある。 ○ 障害福祉計画については、障害児支援に関するサービスの必要量の見込み等につい て記載するよう努めることとされている。 28 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ ライフステージに応じた切れ目の無い支援と保健、医療、福祉、保育、教育、就労 支援等と連携した地域支援体制の構築を図る観点から、個々の障害児やその家族の状 況及びニーズに応じて、気づきの段階からきめ細かく対応するとともに、障害児支援 のうち特に放課後等デイサービスなどの障害児通所支援の質の向上を図るため、以下 のような取組を実施すべきである。 (発達支援のきめ細かな提供) ○ 乳児院や児童養護施設等に入所している障害児に対して必要な支援を提供するた め、乳児院や児童養護施設等を訪問して実施する発達支援を推進する方策を講じるべ きである。 ○ 重度の障害等のために外出が困難な障害児に対して必要な支援を提供するため、自 宅を訪問して発達支援を実施する方策を講じるべきである。 (医療的ケア児への支援) ○ 重症心身障害児に当たらない医療的ケア児について、障害児に関する制度の中で明 確に位置付け、必要な支援を推進すべきである。 ○ 医療的ケア児等について、医療・福祉の連携が求められる重症心身障害児等の地域 支援に関するモデル事業の実施状況等も踏まえ、その家族の負担も勘案し、医療、福 祉、教育等の必要な支援を円滑に受けることができるよう、都道府県・市町村や関係 機関の連携に向けた方策や、相談支援事業所等の相談支援に早期につなげる方策を講 じるべきである。 (適切なサービスの確保と質の向上) ○ 障害児の放課後等の支援については、子ども・子育て支援施策である放課後児童ク ラブや教育施策である放課後子供教室等における受入れを引き続き推進すべきであ る。その際、保育所等訪問支援などを活用して、必要に応じて専門的なバックアップ を行うべきである。 ○ 放課後等デイサービスなどの障害児通所支援については、発達支援を必要とする障 害児のニーズに的確に対応するため、質の向上と支援内容の適正化を図る観点から、 放課後等デイサービスガイドラインの活用を徹底するとともに、発達支援等の子ども に関する支援の専門的な知識・経験を有する者の配置を求めるほか、障害児本人の発 達支援のためのサービス提供を徹底するなど、制度面・運用面の見直しを行うべきで ある。 ○ 障害児のニーズに的確に応える観点から、障害福祉サービスと同様に、都道府県・ 市町村において、障害児支援のニーズ等の把握・分析等を踏まえ、障害児支援に関す るサービスの必要量の見込み等について、計画に記載すべきである。 29 10.その他の障害福祉サービスの在り方等について (1) 現状・課題 (障害者総合支援法の「障害者」の範囲) ○ 障害者総合支援法については、平成 25 年4月に、制度の対象として難病等が追加 され、順次、対象となる疾病の拡大が図られており、本年 7 月には 151 疾病から 332 疾病に拡大されている。また、障害者総合支援法における「障害者」の定義を、障害 者基本法における「障害者」の定義に合わせるべきではないか、小児慢性特定疾病に おける対象疾病も含め、支援を必要とする疾病を幅広く対象とすべきではないか等の 意見がある。 (障害福祉サービス等の質の確保・向上) ○ 障害福祉サービスの利用者が多様化するとともに、サービスを提供する事業所数も 大幅に増加している中、利用者が個々のニーズに応じた良質なサービスを選択できる ような仕組みや、事業者が提供するサービスの質の確保・向上を図る取組が重要とな る。特に、サービスの質の確保に当たっては、情報の透明性の確保や適正な執行の確 保が重要な課題となっている。例えば、実地指導について、施設は2年に1度、その 他のサービス事業所は3年に1度行うこととされているが、自治体間で実施率に開き があり、実施率の向上が課題となっている。 ○ 都道府県と市町村では、障害福祉サービス等の提供体制の確保に向け、必要なサー ビス等の見込量等を記載した障害福祉計画を作成することとしている。第4期障害福 祉計画(平成 27 年度~29 年度)に係る基本指針では、PDCA サイクルを導入している が、各自治体において、実効性ある取組を推進していく必要がある。 (障害福祉サービス等の持続可能性の確保) ○ 政府は、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)について、2020 年度 (平成 32 年度)までに黒字化を目指すとの財政健全化目標を掲げており、社会保障 関係費については、平成 32 年度に向けて、その伸びを、高齢化による増加分と消費 税率引上げと併せて行う充実等に相当する水準におさめることを目指すこととされ ている。財政制度等審議会では、障害者総合支援法の見直しに当たっては、サービス 提供の在り方や財源・利用者負担の在り方等について幅広く検討を行い、制度の持続 可能性の確保を図るべきと建議されている。 ○ 障害福祉サービスについては、義務的経費化を行うことで、支援を必要とする障害 者等に対し、安定的にサービスを提供することができるようになった。一方で、障害 福祉サービス関係予算額が 10 年間で2倍以上に増加しており、国・地方自治体の財 政状況にも配慮する必要がある。 30 ○ 社会保障関係費全体について制度の持続可能性の確保が求められている中、障害福 祉サービスについても、障害者に対して必要な支援を確実に保障するため、サービス 提供を可能な限り効率的なものとすること等により、制度を持続可能なものとしてい く必要がある。今回の制度見直しを含め、障害者のニーズを踏まえたサービスの充実 においては、既存の障害福祉サービスの重点化・効率化を始めとする制度の見直しや 負担の在り方の見直し等と併せて、財源を確保しつつ実施していく必要がある。 (障害福祉サービス等の利用者負担) ○ 障害者の利用者負担については、厚生労働省と障害者自立支援法違憲訴訟原告団・ 弁護団との基本合意(平成 22 年1月)や「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福 祉部会の提言」(平成 23 年8月)等も経て、順次軽減され、現在低所得者等(93.3%) の利用者負担は無料となっており、給付全体に占める利用者負担の割合は 0.26%とな っている。また、障害者自立支援法の創設時に、激変緩和措置として経過措置(食事 提供体制加算、障害児サービスにおける補足給付の特例、医療型個別減免の特例)が 設けられており、これらは平成 30 年3月 31 日までの措置となっている。 ○ 自立支援医療の経過的特例措置は、平成 18 年度の自立支援医療制度創設時に、若 年世帯が多い育成医療の中間所得層及び一定所得以上の「重度かつ継続」対象者の医 療費負担が家計に与える影響等を考慮し、激変を緩和するという観点から負担上限が 設定されており、これらは平成 30 年3月 31 日までの措置となっている。 ○ 利用者負担については、負担能力のある人には必要な負担を求めるべきであり必ず しもサービスの利用抑制につながらないのではないか、所得水準に応じたきめ細かな 階層区分があってもよいのではないか、といった意見や、利用者負担を引き上げた場 合にはサービスの利用抑制や医療の受診抑制につながるのではないか、家計に影響を 及ぼすのではないか、といった意見がある。また、障害者の生活実態等の調査・検証 が必要なのではないか、就労系サービスはILO条約との関係にも留意して検討する 必要があるのではないか、との意見もある。 (障害福祉サービス等の制度・運用) ○ 地域生活支援事業については、地域の実情に応じた取組が行われており、その事業 ニーズが増大している。裁量的経費であり、予算額の伸びには一定の制約がある中で、 地方公共団体や当事者団体から予算の確保を強く要望されている。一方で、任意事業 で実施率が低く、必要性が低下したと考えられる事業については廃止するなど、従来 から見直しが行われており、引き続き見直しを行っていく必要がある。 ○ その他、障害福祉サービス等の制度・運用面については、補装具・日常生活用具の 適切な支給等に向けた取組、障害福祉サービス等を担う人材の確保や資質向上、障害 福祉サービス等における報酬の支払い(昼夜分離と報酬の日払い方式の考え方)、女 性の障害者に対する配慮等の課題が指摘されている。 31 (2) 今後の取組 (基本的な考え方) ○ 障害福祉サービス等の利用者が多様化するとともに、サービスを提供する事業所数 も大幅に増加するなど、障害者総合支援法の施行状況が変化する中で、障害福祉サー ビス等の質の向上・確保や制度の持続性の確保に向けて、以下のような取組を進める べきである。 (障害者総合支援法の「障害者」の範囲) ○ 障害者総合支援法はサービス給付法という性質を有するため、制度の対象となる者 の範囲を客観的に明確にしておく必要があるが、障害福祉サービスを真に必要とする 者がサービスを受けることができるよう、引き続き検討を行うとともに、指定難病に 関する検討状況も踏まえつつ、対象疾病の見直しを検討していくべきである。 (障害福祉サービス等の質の確保・向上) ○ 利用者が、個々のニーズに応じた良質なサービスを選択できるよう、介護保険や子 ども・子育て支援制度を参考としつつ、サービス事業所の情報(例えば、事業所の事 業内容、職員体制、第三者評価の状況等)を公表する仕組みを設けるべきである。 ○ 事業所が提供するサービスの質の確保・向上に向け、自治体が実施する事業所等へ の指導事務を効果的・効率的に実施できるよう、介護保険制度における指定事務受託 法人制度を参考としつつ、当該事務を適切に実施することができると認められる民間 法人への委託を可能とすべきである。 ○ 市町村による給付費の審査をより効果的・効率的に実施できるよう、現在支払事務 を委託している国民健康保険団体連合会について、審査を支援する機能を強化すべき である。また、制度に対する理解促進や不正請求の防止等の観点から、市町村から利 用者に対し、サービス内容や金額を通知するなどの取組を推進すべきである。 ○ 障害福祉計画の実効性を高めていくため、例えば、PDCA サイクルを効果的に活用し ている好事例を自治体間で共有するとともに、都道府県ごとの目標・実績等の公表・ 分析や、障害福祉サービスの利用状況等に関するデータ分析に資する取組などを推進 すべきである。 32 (障害福祉サービス等の利用者負担) ○ 障害福祉サービス等の利用者負担については、障害者総合支援法の趣旨やこれまで の利用者負担の見直しの経緯、障害者等の家計の負担能力、他制度の利用者負担との バランス等を踏まえ、制度の持続可能性を確保する観点や、障害福祉制度に対する国 民の理解や納得を得られるかどうかという点、利用抑制や家計への影響といった懸念 にも留意しつつ、引き続き検討すべきである。 ○ 利用者負担に関する経過措置(食事提供体制加算等)の見直しについては、時限的 な措置であること、施行後 10 年を経過すること、平成 22 年度より障害福祉サービス の低所得者の利用者負担が無料となっていること、他制度とのバランスや公平性等を 踏まえ、検討すべきである。 (障害福祉サービス等の制度・運用) ○ 地域生活支援事業の在り方については、必要な事業を効果的・効率的に実施するこ とができるよう、自治体における執行状況やニーズ等を踏まえて事業内容を精査する とともに、障害福祉サービスの個別給付の在り方を見直す中で、財源を確保しつつ、 引き続き検討すべきである。 ○ 補装具については、効果的・効率的な支給に向け、実態の把握を行うとともに、購 入を基本とする原則を堅持しつつ、成長に伴って短期間で取り替えなければならない 障害児の場合など、個々の状態に応じて、貸与の活用も可能とすることや、医療とも 連携した相談支援の体制整備等を進めるべきである。また、日常生活用具給付等事業 については、効果的・効率的に実施することができるよう、執行状況やニーズ等を踏 まえ、検討すべきである。 ○ 障害福祉サービス等の提供を担う人材の確保や資質向上に向けて、職員の資質向上 やキャリア形成を図ることができる職場環境の整備、熟練した従業者による実地研修 の実施等を促進すべきである。 ○ その他の障害福祉サービス等の制度・運用面に関する課題・指摘については、今後 とも、障害福祉サービス等の質の確保・向上に向けた取組を検討する中で考慮してい く必要がある。 33 開催経緯 第61回 日時:4月28日(火) 議題:障害者総合支援法施行後3年を目途とした見直しについて 第62回 日時:5月29日(金) 議題:関係団体ヒアリング① 第63回 日時:6月2日(火) 議題:関係団体ヒアリング② 第64回 日時:6月9日(火) 議題:関係団体ヒアリング③ 第65回 日時:6月15日(月) 議題:関係団体ヒアリング④ 第66回 日時:7月7日(火) 議題:障害福祉施策等に関する最近の動き(報告) 常時介護を要する障害者等に対する支援について 第67回 日時:7月14日(火) 議題:障害者等の移動の支援について 障害者の就労支援について 第68回 日時:7月24日(金) 議題:高齢の障害者に対する支援の在り方について 第69回 日時:9月8日(火) 議題:障害者の意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方について 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他 の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援 の在り方について 第70回 日時:9月9日(水) 議題:障害児支援について 障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方について 34 第71回 日時:9月25日(金) 議題:精神障害者に対する支援の在り方について その他の障害福祉サービスの在り方等について 第72回 日時:10月15日(木) 議題:常時介護を要する障害者等に対する支援について 障害者等の移動の支援について 障害者の就労支援について 第73回 日時:10月20日(火) 議題:精神障害者に対する支援の在り方について 障害者の意思決定支援・成年後見制度の利用促進の在り方について 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他 の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援 の在り方について 第74回 日時:11月2日(月) 議題:高齢の障害者に対する支援の在り方について 障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方について 第75回 日時:11月9日(月) 議題:障害児支援について その他の障害福祉サービスの在り方等について 第76回 日時:11月13日(金) 議題:議論の整理① 第77回 日時:11月27日(金) 議題:議論の整理② 第78回 日時:12月4日(金) 議題:報告書(案)について 第79回 日時:12月14日(月) 議題:報告書(案)について 35 ヒアリング団体一覧 5月29日(金) ・一般財団法人全日本ろうあ連盟 ・一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 ・社会福祉法人全国盲ろう者協会 ・全国手をつなぐ育成会連合会 ・公益社団法人日本看護協会 ・公益社団法人日本精神科病院協会 ・全国社会就労センター協議会 ・全国就労移行支援事業所連絡協議会 ・特定非営利活動法人全国就業支援ネットワーク ・きょうされん 6月2日(火) ・一般社団法人日本筋ジストロフィー協会 ・公益社団法人全国脊髄損傷者連合会 ・一般社団法人日本ALS協会 ・公益財団法人日本知的障害者福祉協会 ・全国身体障害者施設協議会 ・特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク ・特定非営利活動法人日本相談支援専門員協会 ・障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学会 ・特定非営利活動法人DPI日本会議 ・全国自立生活センター協議会 6月9日(火) ・社会福祉法人日本盲人会連合 ・特定非営利活動法人日本失語症協議会 ・特定非営利活動法人日本脳外傷友の会 ・一般社団法人日本難病・疾病団体協議会 ・特定非営利活動法人難病のこども支援全国ネットワーク ・公益社団法人日本医師会 ・公益社団法人全国精神保健福祉会連合会 ・公益社団法人日本精神保健福祉士協会 ・特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会 36 ・一般社団法人日本精神保健福祉事業連合 ・全国精神障害者社会福祉事業者ネットワーク ・一般社団法人日本精神科看護協会 ・全国「精神病」者集団 6月15日(月) ・一般社団法人日本自閉症協会 ・一般社団法人日本発達障害ネットワーク ・一般社団法人全国児童発達支援協議会 ・社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 ・社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会 ・公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 ・全国重症心身障害日中活動支援協議会 ・一般社団法人全国肢体不自由児者父母の会連合会 ・全国肢体不自由児施設運営協議会 ・全国知事会 ・全国市長会 ・全国町村会 37 社会保障審議会 障害者部会 委員名簿(平成 27 年 12 月 14 日現在) 朝貝 芳美 全国肢体不自由児施設運営協議会会長 阿由葉 寛 社会福祉法人全国社会福祉協議会全国社会就労センター協議会会長 石野 富志三郎 一般財団法人全日本ろうあ連盟理事長 石原 康則 全国就労移行支援事業所連絡協議会会長 伊藤 建雄 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会前代表理事 ○ 伊豫 雅臣 千葉大学大学院医学研究院精神医学教授 大濱 眞 公益社団法人全国脊髄損傷者連合会副代表理事 小澤 温 筑波大学人間系教授 河﨑 建人 公益社団法人日本精神科病院協会副会長 菊池 馨実 早稲田大学法学学術院教授 菊本 圭一 特定非営利活動法人日本相談支援専門員協会代表理事 北岡 賢剛 特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク顧問 久保 厚子 全国手をつなぐ育成会連合会会長 小西 慶一 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会副会長 ◎ 駒村 康平 慶應義塾大学教授 佐藤 進 埼玉県立大学名誉教授 竹下 義樹 社会福祉法人日本盲人会連合会長 橘 文也 公益財団法人日本知的障害者福祉協会会長 藤堂 栄子 一般社団法人日本発達障害ネットワーク副理事長 中板 育美 公益社団法人日本看護協会常任理事 永松 悟 全国市長会(杵築市長) 中村 耕三 国立障害者リハビリテーションセンター総長 野澤 和弘 毎日新聞論説委員 樋口 輝彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター理事長・総長 日野 博愛 社会福祉法人全国社会福祉協議会全国身体障害者施設協議会会長 広田 和子 精神医療サバイバー 本條 義和 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長 松本 純一 公益社団法人日本医師会常任理事 山口 祥義 全国知事会(佐賀県知事) (五十音順、敬称略) (◎は部会長、○は部会長代理)