衆議院厚生労働委員会における阿部一彦会長の意見陳述(平成30年11月21日)  ただいまご紹介いただきました、日本身体障害者団体連合会の阿部です。よろしくお願いいたします。私たち日身連も今回の問題はとても大きな問題だと思い、さまざまな場で意見を述べさせていただきました。またその内容については、基本方針にとり入れていただいたところもありますので、とても大事なことだと確認しています。  さて本来、民間企業に率先垂範して障害者雇用を行う立場にある行政機関において、あってはならない行為が長年にわたって行われていたという事実は、誠にゆゆしき問題です。障害者雇用に真摯に取り組んできた関係者の信頼をゆるがす、きわめて深刻な事態であると認識する必要があります。  検証結果を見ますと、きわめてずさんな取り組みが長年にわたって行われていたことが判明しました。数多くの機関において、対象障害者として計上した根拠となる確認資料が引き継がれないまま、名簿のみが引き継がれたり、勝手に解釈、判断して計上するなどの事実から考えますと、障害者雇用の推進を行うという意識がきわめて低かったといわざるを得ません。また、このような状況が生じていたことに、厚生労働省が気づいてこなかったという事実も深刻なことです。事実にしっかり向き合って改善に努める必要があります。  ところで、障害者手帳所持の確認が行われなかったことなどから、手帳の所持が職務の遂行や昇進、配置換えなどに関して、不利益を生じさせると考えさせるような職場の雰囲気があったのではないかと疑われます。  本年4月に公表されました平成28年度調査による障害者数に関する資料によれば、在宅の身体障害児数が6万8千人なのに対して、18歳以上65歳未満の身体障害者数は101万人であることがわかりました。このことから、成人になってから、つまり職業に従事している間に障害者手帳を持つ人の数が大幅に増えていることが推測されます。各機関に入職後に障害者手帳を取得した人の実態などが判明すれば、さらに検討を深めることができたと考えられます。内部障害など、見た目には分からない障害がありながら、手帳の所持を言い出せない、または障害者手帳を申請しない方がいたとしたら、大きな問題です。また、このことは精神障害においても大きな問題です。障害があっても、その人に応じた合理的配慮が提供されることによって十分な職務能力が発揮できる職場環境を構築する必要があります。  公務部門における障害者雇用に関する基本方針を見ますと、統一的に行われる障害者を対象とした選考試験の導入など、評価できることがあります。しかし、雇用率達成のための単なる数合わせに終始することであってはいけません。  採用される障害のある人にとって、やりがいのある仕事の内容、働きがいのある職場をつくることが重要です。  そのためにも、これまで障害者就労において実績のある専門家の採用や、民間企業の取り組みで培われたノウハウを十分に導入する必要があります。  これまでの蓄積が、民間企業における納付金制度の財源の活用によって得られた知見や、技術、研究成果であっても、納付金制度が該当しない公務部門においても十分に活用すべきだと考えます。また同様に、ジョブコーチとよばれる職場適応援助者の活用も必要です。  一方、大事に思うことは、必ずしも統一的に行う障害者を対象とした選考試験での採用だけではなく、これまでも行われてきたと思いますが、障害があっても国家公務員試験を受験して、総合職、一般職、専門職をめざす力を持っている障害者の採用にしっかりと取り組んでいただきたいということです。合理的配慮がなされれば、持てる力を十分に発揮して、行政マンとして施策の策定などに関わることは重要です。障害を体験してきたことは、その場合にはその人にとっての大事な資源でもあります。  また、ともに働く障害のない行政マンにとっても障害のある同僚から体験的に学ぶことも数多いと思います。  多くの国民にとっても、共生社会の実現に取り組むことの重要性の認識を深めることにつながると思います。  合理的配慮の重要性について、さらに話を進めさせていただきます。私の知人の体験ですが、障害者としてのさまざまな体験と知見をもとに、高い専門性を有している彼が、その専門性の活用のために採用されたときの事です。  パソコンを使用する際に、手に障害があるために職場のキーボードを使うことができませんでした。そこで、彼が日頃から使用している特別なキーボードを持参して職場で使おうとしたのですが、職場の規則により私物を持ち込むことはできないと禁じられました。上司の方はそのことは大事だと判断されたのですが、役所の規則のために使用できなかったのです。  そして話し合いがもたれ、ようやく彼のものと同じキーボードを購入することになったのですが、入手するまでの2ヶ月間、彼はパソコンを使えませんでした。合理的配慮の提供が役所の規則によって妨げられたのです。規則を大事にすることは大切なことですが、2ヶ月間パソコンでの仕事を行えなかったのは大きな損失です。せめて、入手できるまでの期間だけでも、私物ではありますが、自宅でいつも使っているキーボードを使うことはできなかったのでしょうか。合理的配慮について十分に対応できる部署、判断できる部署が必要だと思います。  一人ひとりにとって不便なこと、困難なことは異なります。その人、その人にとっての社会的障壁を取り除くための合理的配慮について、柔軟に対応できることが、今回のように数多くの障害のある人々にとって働きがいのある就労を実現するために必要なことです。  また、障害者手帳の所持に至らない慢性疾患、難病、一時的な障害のために働くことに困難を抱えている人々にとっても合理的配慮が重要です。  さて、地方公共団体における障害者雇用も重要です。その中でも教育委員会の実雇用率が低迷していることの改善が求められます。  ユニバーサルデザイン2020行動計画は、社会を変える大きな取り組みだと思います。  学校における障害理解、企業、地域、国民に向けての取り組みなど、大きな期待を抱かさせます。  これらの取り組みには、障害の体験を大きな力として取り組む、障害のある人の関与が求められるのではないのでしょうか。  特に学校教育における心のバリアフリー、障害理解の取り組みなどには障害のある職員の活躍の場があるのではないかということを申し述べ、障害のある人の体験を大きなその人の力、大きな資源として職務遂行に生かすことの重要性を強調させていただいて、私の発言を終了いたします。  今回このような貴重な機会をいただきましたことに感謝申し上げます。